- これまで撥弦(はつげん)楽器などの音色(おんしょく)の評価は人の感覚で行われてきており、例えば、伝統的高級手工ギターと安価な量産型ギターでは音色に大きな違いのあることが認められています。例えば、クラシックギターの銘器は美しく澄んだ音色(シルキートーン)であるといわれています。
この音色を定量化することができれば、楽器選びの一つの指標を得ることができると考えられます。さらに、楽器の特性に合わせた新たな奏法技術の開発や楽器製作時の評価基準として役立つものと考えられます。
そこで、当研究室では撥弦楽器の音色を定量的に表す方法について検討しています。
これまでクラシックギターに関する研究は種々行われてきましたが、音色を定量的に表す検討は行われていませんでした。本研究では、音色は音に含まれる倍音の分布の違いにより形成されることに着目しています。具体的には、クラシックギターの音を周波数分析し、音楽理論の音階論を用いることでこの中に含まれる基音(弦の音程を表す最も低い周波数成分)より高い周波数成分(倍音)を調和性によって分類し、そのバランスを評価係数により数値化します。この評価係数は、倍音が基音と調和し、澄んだ音色では高い数値となります。
一例として、伝統的な高級手工ギターの代表格であるホセ・ラミレスⅢ世(スペイン:1964年製)とお手頃な価格の量産型ギターの開放弦の撥弦音(1弦~6弦を左手で何も押さえないで弾いた音)でこの評価係数を実験により比較したところ、全ての弦でラミレスⅢ世の評価係数の値は量産型ギターの値を上回る結果となり、感覚評価と整合した特性が得られています。